横浜国立大学理工学部化学・生命系学科(化学応用EP)・大学院理工学府化学生命系理工学専攻(化学応用・バイオ/エネルギー化学教育分野)

横浜国立大学エネルギー変換化学研究室/光島・黒田研究室

アルカリ水電解の逆縁流による劣化抑制に向けた金属酸化物アノード触媒の充放電挙動の検討

担当者:織田和明 M2(研究当時)

Investigation of Charge-Discharge Behavior of Metal Oxide-Based Anode Electrocatalysts for Alkaline Water Electrolysis to Suppress Degradation due to Reverse Current
Electrocatalysis 14 (2023) 499-510.

地球温暖化対策のため、二酸化炭素の排出を削減するためには、エネルギー源を化石燃料主体のものから再生可能エネルギーに転換する必要があります。 再生可能エネルギーは発電適地や発電可能な時間が限られるため、これを用いて水電解により水素を製造し、貯蔵・輸送することで使い易くする必要があります。 水電解の方式の中でも、アルカリ水電解は低コストで大規模な水素製造に向いた方法ですが、工業的に利用されるバイポーラ型電解槽では運転停止時に逆電流が発生し、電極の劣化につながるという問題があります。 逆電流の発生の主な原因に、電極材料の充放電現象がありますが、これまで電極材料の充放電は詳しく調べられていませんでした。 本研究では、いくつかの電極材料を合成し、アルカリ水電解と同じ条件で充放電挙動を調べました。

Co系、NiCo系、Mn系と種々の酸化物材料について放電容量を調べました。 放電容量が大きい電極材料は、逆電流を生じさせる能力が高くなります。 放電容量が大きいほど、それ自体は安定になりますが、反対側の電極(陽極に対する陰極など)の劣化を促進してしまいます。 今回用いた電極材料において、放電容量は電極材料の表面積に依存することがわかりました。 これは、電極の充放電が金属酸化物表面のみで生じることを示しています。 また、Co3O4とMn系触媒では同じ表面積で2倍の容量の違いがあり、NiCo2O4はこれらの中間の性質を持ちます。 これは構成元素の酸化還元反応の様式に由来することがわかりました。

逆電流による劣化は、電解槽の陽極、陰極の両方をセットで考える必要があり、片側を守るともう片側が強い劣化の作用を受けるといった自体になりかねません。 通常、電極材料の電解性能は表面積が大きいほど高くなりますが、同時に逆電流の発生量増加につながるため、適切なバランスを取る必要があると言えます。 本研究に示す様な、電極材料の充放電挙動を理解することにより、合理的な電極設計が進むと考えられます。