横浜国立大学理工学部化学・生命系学科(化学応用EP)・大学院理工学府化学生命系理工学専攻(化学応用・バイオ/エネルギー化学教育分野)

横浜国立大学エネルギー変換化学研究室/光島・黒田研究室

再生可能エネルギーを用いたアルカリ水電解酸素極のための加速劣化試験法

担当者:アシュラフ アブドルハリム IAS助教

A New Accelerated Durability Test Protocol for Water Oxidation Electrocatalysts of Renewable Energy Powered Alkaline Water Electrolyzers
Electrochemistry 89 (2021) 186-191.

アルカリ水電解法は電力を用いた水素製造の方法であり、再生可能エネルギーの余剰電力を水素として貯蔵するための方法として注目されています。 アルカリ水電解の酸素発生電極(アノード)には電極触媒を塗布したNi系電極が用いられますが、電解槽を停止すると電極上の高酸化状態にある酸化物が放電することで逆電流を生じ、性能劣化することが知られています。 再生可能エネルギーは太陽光や風力が主であり、頻繁に電解停止することが想定されるため、電解停止を繰り返したときにどの程度電極が劣化するかを知ることは電極開発における重要な課題と言えます。 しかし、アルカリ水電解において停止を繰り返すような運転条件はこれまで想定されておらず、様々な研究機関で統一した基準で耐久性能を比較することはされていませんでした。 本研究では、電解停止を短時間に繰り返して電極を加速劣化する方法を検討し、電極の耐久性能を評価・比較するための方法として提案しました。

今回開発した評価法を図に示します。電極は1 cm × 1 cm程度の大きさに切り出し、一般的な三電極式セルに設置して電気化学測定装置を用いて評価します。 まず、電解状態を模擬するため、電流を600 mA/cm2に制御して60秒電解し、続いて停止状態を模擬するために電位を0.3~0.7 V vs. RHEの一定電位に制御して一定時間逆電流を発生させます。 この操作を何サイクルも繰り返し、電極性能の変化を調べることで劣化挙動を知ることができます。 通常、この様な加速試験では電位を制御することが多いのですが、水電解では一度に流通する電流が大きいため、電解質の電位降下(電流×抵抗で表される)による誤差が大きくなります。 電解時に電位ではなく電流を制御すると、この様な誤差を防ぐことができ、異なる研究機関でも同様の結果を得ることができるようになります。

図にNiCoOx/Ni電極を用いた試験結果を示します。縦軸は100 mA/cm2の電解を行ったときの電極電位で、値が低いほど性能が良いことを表します。 横軸が試験サイクル数であり、400サイクル頃から劣化が始まることがわかります。三角のプロットは通常の試験法による結果で、菱形のプロットはサイクル毎に10秒の休憩をさせたときの結果です。 この様に、本試験法を用いることで同じ起動停止の繰り返しであっても休憩の有無で劣化の進み方が変化することも分かりました。 この方法を用いて様々な電極の耐久性能を比較検討することで、再生可能エネルギー利用に適した電極の開発が進むと期待されます。