横浜国立大学理工学部化学・生命系学科(化学応用EP)・大学院理工学府化学生命系理工学専攻(化学応用・バイオ/エネルギー化学教育分野)

横浜国立大学エネルギー変換化学研究室/光島・黒田研究室

ハイブリッド水酸化コバルトナノシートによる自己修復の原理

担当者:中嶋律己 M2(研究当時)

Principles of Self-Repairing Ability of Tripodal Ligand-Stabilized Hybrid Cobalt Hydroxide Nanosheets for Alkaline Water Electrolysis
ChemSusChem (2023) e202300384.

再生可能エネルギーを用いたアルカリ水電解では、電力変動に伴う電極の劣化が深刻な課題となっています。 当研究室では、これまでにハイブリッド水酸化コバルトナノシート(Co-ns)β-FeOOHナノロッドを用いた自己修復触媒により、電極の長寿命化が可能であることを報告してきました。 しかし、これらの材料がなぜ良好な自己修復特性を示すかは明らかではなく、更なる材料開発の課題となっていました。 本研究では、Co-nsによる自己修復のメカニズムを詳細に検討し、なぜこの材料が特に有用であるかを明らかにしました。

Co-nsは、アルカリ水電解の電解液に微量分散して用い、電解を行うと自発的に電極表面に集合して触媒層を形成します。 電極が劣化すると、触媒の剥離が生じますが、新たに触媒が堆積することで性能を維持することができます。 Co-nsの分散濃度を様々に変化させ、電解中のCo-nsの析出速度を算出したところ、析出速度は分散濃度と電位に依存して変化しました。 通常、電気分解中は電流を一定に保つため、電解初期や劣化後の電極性能が低い状態では電極電位が増加します。 Co-nsは電極電位が高い時に析出を加速するため、電極劣化に応答して自動的に修復がスタートする有用な特徴を持っていることがわかりました。

また、修復の際はCo-ns中のCo2+が酸化されることで析出が進行しました。 ハイブリッド構造を持たないCo(OH)2は、ある程度は自己修復可能ですが、電解液中の溶存酸素に酸化されると修復能を失ってしまいます。 しかし、Co-nsは有機修飾の効果により溶存酸素による酸化をほぼ受けず、修復能が長期に渡り持続することが明らかとなりました。 このような結果から、ハイブリッド化による物性設計が自己修復触媒の性能向上に有効であることが示されました。